出生率1.20で最低 人口減に拍車 2024年6月6日日経新聞より
厚生労働省は5日、2023年の人口動態統計を発表した。1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.20で過去最低を更新した。出生数や婚姻数も戦後最少だった。経済負担や働き方改革の遅れから結婚や出産をためらう若い世代が増えた。少子化と人口減少が加速してきた。
【ビジュアル解説】日本の出生率、最低の1.20 データで読み解く今と未来
出生率は16年から8年連続で低下した。これまでの最低は22年と05年の1.26だった。国立社会保障・人口問題研究所が23年4月に公表した将来人口推計の仮定値(中位、1.23)を下回った。
年齢別の出生率をみると、最も落ち込み幅が大きかったのは25〜29歳の女性だった。第1子出生時の母の平均年齢は31.0歳となり、初めて31歳台になった。
地域別にみると、出生率が最も低いのは東京都の0.99だった。1を割り込んだのは東京だけだった。埼玉、千葉、神奈川の首都圏3県はいずれも1.1台にとどまり、都市部で低い傾向があった。最も高いのは沖縄県の1.60だった。全47都道府県で前年を下回った。
外国人を除く出生数は前年比5.6%減の72万7277人だった。死亡数は前年比0.4%増の157万5936人と過去最多だった。出生数は17年連続で死亡数を下回り、出生と死亡の差である自然減は84万8659人。前年よりも5万人多く、人口減少のペースが加速している。
出生率の低下は未婚化や晩婚化など様々な要因が影響している。婚姻数は前年比6.0%減の47万4717組で、戦後初めて50万組を下回った。婚外子が少ない日本では婚姻数の減少は出生数に直接影響する。
21年の出生動向基本調査によると、「いずれ結婚するつもり」と答えた未婚者の割合は15年調査と比べて男女ともに5ポイント近く減った。「結婚したら子どもを持つべき」と答えた人は男性が20.4ポイント、女性が30.8ポイント減った。
教育などの経済的な負担から、子どもを持つことや第2子以降の出産をためらう人もいる。日本総合研究所の藤波匠上席主任研究員は「低賃金や非正規など若い人の雇用環境を改善すべきだ」と指摘する。
子育て支援の先進例とされる国でも少子化が進む。フィンランドの23年の出生率は過去最低の1.26だった。直近で最も高かった10年の1.87から大きく落ち込んだ。フランスは23年の出生率が1.68と、第2次世界大戦後で最低水準だった。10年には2.03まで持ち直していた。
どちらの国も育児休業や託児所の整備などを手厚く支援してきた。経済協力開発機構(OECD)によると、家族関係社会支出の国内総生産(GDP)比はフランスが3%超と最も高く、フィンランドもOECD平均を上回る。
価値観が多様化し、子どもを持つ優先度が相対的に下がっている。女性の高学歴化に伴い出産年齢が高齢化しているとの指摘もある。子育て向けの金銭的な支援を増やしても出生率の改善には限界がある。
東アジアの少子化は日本以上に深刻だ。子どもを持ちづらい背景には高額な教育費や住宅価格などの要因が絡まる。
韓国は23年の出生率が0.72と世界最低水準だった。歴代政権は児童手当や多子世帯への補助金、不妊治療への保険適用などの対策を講じてきた。06年から22年までに投入した少子化予算が332兆ウォン(約37兆円)に達するが、出生率向上はままならない。
受験戦争が激しく、学習塾などの教育費の負担は重い。子育てとの両立が難しい労働環境、住宅価格の高騰なども出産のハードルになっている。
奨励金などで出産を促してきたシンガポールも出生率は23年に0.97と、初めて1を割り込んだ。生活費や教育費が上昇し、多くの人は子育てへの展望が開けていない。23年度予算では男性が任意で取得できる公的な有給産後休暇を前年から倍増して4週間とした。
台湾も23年の出生率が0.87と少子化に悩む。住宅費高騰や高い教育費など、ほかの東アジア諸国と事情は似る。晩婚化が進み、子どもを持たない夫婦も増えた。
給付中心の政策を転換し、改善傾向にあるのがドイツだ。働き方の改革を進め、30年間で子どもと両親が一緒に過ごす時間は1.5〜2倍近くまで増えた。移民の受け入れも進めており、22年の出生率は1.46と長期的には上向いている。
米国は移民を受け入れて経済成長につなげている。日本は外国人との共生が米国などと比べると進んでいない。与野党とも出生率と人口減、経済成長の複合的な問題に真正面から取り組む機運が乏しい。
<要約>
厚生労働省の2023年の人口動態統計によると、国内の平均出生率は1.20で過去最低を更新した。出生数は戦後最少、死亡数は過去最多となり、人口減少のペースが加速している。出生率の低下は、未婚化や晩婚化など様々な要因が影響し、戦後初の50万組を下回った婚姻数の減少は出生数に直接影響する。世界的に見ても、子育て支援の先進例とされるフィンランドやフランスでも出生率の低下が見られ、韓国や台湾、シンガポールでは、出生率が1を下回り少子化は深刻である。米国は移民の受け入れによって経済成長を図ってきたが、外国人との共生が進んでいない日本では、出生率と人口減、経済成長の複合的な問題解決への展望が開けていない。